私はキノコが好きなのだが、ずっと自分で採集してみたいと思いつつ手を出せていないキノコがあった。ベニテングタケである。(語呂がいいので、ベニテンと呼ぶことにする)主に白樺の森に生えるこのキノコは、私の住んでいる関西地方には自生しておらず、発生時期に自生地へ脚を運ぶ機会がなかなかなかったのだ。
ベニテンの魅力は、なんといっても見る人の心を奪うファンシーなその見た目だろう。ベニテンの名前を知らない人も、美しい赤色に白いイボをつけたあからさまに毒々しい外見はどこかで見たことがあるのではないだろうか。実際、ベニテンは強い毒を持っていて、食べても死ぬことは滅多にないにせよ、嘔吐、幻覚などの症状が出る。またその毒成分を活かしてハエとりに使われるため、本種の学名Amanita muscariaの「muscaria」は「ハエの」という意味なんだそうである。
さてこのベニテン、塩漬けすることで毒が抜けて食べられるようになるらしい。長野県の一部地方では、山がちな地形ゆえの食料生産の乏しさを補うため、ベニテンを毒抜きして食料にしていた歴史があるというのである。そしてなにより、それがなかなかに美味であるらしいのである。ベニテンの毒素は主にイボテン酸、ムッシモール、ムスカリンという成分で、このうちイボテン酸は毒成分であると同時に強烈な旨味成分でもあるというのだ。塩漬けすることで毒成分は多くが流出するが、わずかに残ったイボテン酸だけでも十分な旨味を感じることができるという。なんてこった。そんなことを知ってしまっては、危ないとわかっていても試してみないわけにはいかないじゃないか。
ベニテンを入手する
「今年こそはベニテン狩りにいこう!」
と決めて、はるばる長野県まで出かけたのは去年の10月初旬のこと。なんとしてもベニテンを食べてみたい!一口だけでもいい!という衝動を抑えきれなくなったのだ。
実際にベニテンを手にするまでのいきさつは、ここに書くと非常に長くなるので、後述する過去の記事を読んでもらいたい。3日間走り回った末にベニテンを手にすることができたが、ここにいたるまでには、いろいろな人の助けを借りたりの、なかなかの珍道中があったのである。