北海道内で30年ほど前に発見された「幻のキノコ」がある。150万種とも言われる菌類の中でも、その珍しさから、研究者らによる人気投票でベスト5に選ばれた。しかし今、絶滅の危機がささやかれている。
若手の研究者や学生でつくる「菌学若手の会」が2013年、菌類の魅力を広めようと「日本珍菌(ちんきん)賞」を始めた。研究者や愛好家がイチオシの「推し菌」をツイッターに投稿して、「いいね」やリツイートの数などで順位を決めている。
この賞の初回で5位に選ばれたのが「センボンキツネノサカズキ」だ。珍菌賞創設メンバーの一人、三重大学生物資源学部の白水貴助教は「研究者でも簡単には出会えない『スター性のあるキノコ』です」。
「スター性」とは、一体どんなキノコなのか。北海道大学農学部名誉教授で、キノコの愛好家団体「札幌キノコの会」の顧問も務める五十嵐恒夫さん(87)を訪ねると、数千枚の写真のコレクションから1枚のネガを見せてくれた。
倒木の幹に小さな白いおわんのようなものがびっしりと生えている。直径30センチほどの固まりで、フジツボのようでもあり、正直ちょっと気持ち悪い。
このキノコは1988年、旭川市の突哨山(とっしょうざん)で愛好家によって発見され、五十嵐さんのもとへ持ち込まれた。五十嵐さんは「こんなキノコは見たことがない。これは新種だ」と驚いた。90年に正式に新種として登録されたが、今も謎に包まれている。道内で確認されたのは3カ所のみ。ミズナラなどの倒木にしか生えず生息地は限られる。試した人がいないので、食べられるかどうかもわからない。
北海道で発見された後、福島県川内村でも見つかった。ところが東京電力福島第一原発事故の除染で生息地のミズナラが伐採されてしまった。福島県は17年、県独自の絶滅危惧種に指定している。
五十嵐さんによると、道内でも年々、発見数が減っている。生息地3カ所のうち、今年は胆振地方の1カ所で5株が見つかっただけだ。収集目的なのか、何者かにむしり取られてしまう例も多く、道内の研究者や愛好家らは絶滅に危機感を募らせる。五十嵐さんは「ファンにとっても、道内発の『人気者』がいなくなるのは痛手だ」と話す。