台風19号の影響で千曲川(ちくまがわ)の堤防が決壊するなどして浸水被害を受けた長野市北部。キノコ生産最大手のホクト(長野市南堀)の生産施設も水につかり、約450トンのエリンギが廃棄処分されることになった。キノコが欠かせない鍋シーズンを前に、復旧のめどがたたない状況だという。
堤防の決壊場所から北へ約1・5キロに位置する「赤沼きのこセンター」(同市赤沼)。100人近い従業員が24日、泥で汚れた大量のエリンギ入りの容器を施設内から運び出し、中身を取り出していた。積み上がった数十個のかごの中のエリンギは泥まみれ。発酵したような鼻につくにおいが漂っていた。
ホクトのエリンギは、全国シェアの約半分を占める。赤沼きのこセンターは、その6分の1にあたる年間約3千トンを出荷。全国に10カ所ある同社のエリンギの生産施設の中でも最大級だ。しかし、今回の台風で1階部分が水につかった。生育中だった140トンが泥まみれになり、まだ芽がでていない培養中のものも含めて、約450トンが被害にあった。
施設は新幹線の水没現場近く
「言葉がでなかった」。清水勝典所長(50)は、浸水した施設を初めて見た時を振り返る。施設は、同様に水につかった北陸新幹線の車両基地のすぐそばにある。13日朝に見に行くと、2メートル以上の高さまで濁った水が来ていて、近づくことさえできなかった。
中に入れたのは2日後。換気扇がとまったため、生育室は炭酸ガスが充満して、きつい臭いが漂っていた。6段ある棚のうち4段目までが濁流の被害を受け、大量の容器が通路に散乱。冷蔵庫にあった出荷直前のパック詰めの商品も泥まみれだった。
衛生管理のためにほとんど機械で生産していたが、それらの多くも水没。種菌を培養するため、一定の温度と湿度を保っていた培養室も、電気が止まってすべてだめになった。「みんなで一生懸命育てていたのに。想像以上の状況に、どこから手をつけていいのかさえ分からなかった」と従業員の男性(62)は話す。