つらい禁煙治療に新たな助っ人が現れるかもしれない。マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分がニコチンの離脱症状の辛さを忘れさせ、中毒からの回復を手助けするというのである。今月3日付の英「Daily Mail」が報じている。
「喫煙は公衆衛生における悩みの種であるが、有効で信頼できる治療法はない」
禁煙治療の研究に携わる米ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のテシーン・ヌーラーニ氏は、禁煙の難しさをこのように述べている。今年7月、ヌーラーニ氏らはシロシビンという成分を用いた試験的な禁煙治療についての論文を専門誌「Journal of Psychopharmacology」に発表した。それによると、シロシビンを併用した心理療法は禁煙治療に目を見張るような効果を発揮していたという。
シロシビンは幻覚作用を持つアルカロイドの一種で、摂取すると視覚や聴覚に様々な変化が現れ、幸福感や一体感を感じるという。マジックマッシュルームなどのキノコは古くから宗教儀式に用いられ、神秘体験をもたらすことで知られているが、その作用を引き起こしているのがシロシビンである。
日本では『麻薬および向精神薬取締法』の対象とされて厳しく規制されているシロシビンであるが、毒は使いようによっては非常に役に立つ薬にもなりうるのはご存じの通りである。
効果が高く依存性も低いとされることから、最近ではシロシビンのうつ病や群発頭痛への応用が研究されている。禁煙治療のそのうちの一つである。
今回の論文は2009~2015年に治療試験に参加した15人の追跡調査をまとめたものである。15人のうち12人を平均30カ月後に面接して聞き取り調査したところ、うち9人が禁煙に成功しており、2人は喫煙を再開、1人は付き合いのときだけ喫煙するようになっていた。
参加者によれば、シロシビンの摂取による様々な精神的な経験がニコチン離脱症状の辛さを忘れさせてくれたという。治療の効果は禁煙だけではなかった。参加者らは審美的な鑑賞力や利他主義、社会的な行動という点でも良い影響があったと、治療の副次的な効果も報告している。
まさに「毒をもって毒を制す」というような治療であるが、喫煙は世界的にも大きな問題であり、有効な治療法の確立が急がれている。治療によってタバコは止められたがシロシビン中毒になってしまった……というのでは本末転倒であるが、そのようなデメリットなく治療できるのであれば、禁煙したい人にとってはまさに朗報であろう。今後の研究に期待したいところだ。