東京電力福島第1原発から約11キロの沿岸部。津波から逃れた高台で、シイタケ栽培を再開させた。避難指示が昨年7月に解除された南相馬市小高区は風評被害の不安が根強い地域だが、「しいたけ農業」の泉景子さん(37)は「小高でキノコができるなら、他の野菜も全て作れる」と被災地での営農再開の先頭に立ち、産地再生を望む。
子どもの時から祖父母の田植えや稲刈りを手伝い、「いつかは農業で自立したい」と、父親が経営する重機修理会社で事務員として勤務する傍ら、専業農家の道を模索してきた。
小高区は昔からシイタケ栽培が盛んだった。近所のシイタケ農家の先輩に頼み込んで弟子入りし、約2年かけて栽培のイロハを必死に学んだ。しかし、夢だった農業での自立を果たした7カ月後に、震災と原発事故に見舞われた。
「小高で農業は無理」と周囲に言われたこともあったが、泉さんは「挑戦しないうちに諦めるのは、許せなかった」との固い信念を持ち、避難先で飲食店のアルバイトをしながら再起を目指した。消費者に安心してもらえるシイタケを作ろうと、除染業務従事者の資格を取り、除染も兼ねて裏庭の山を重機で崩し、新しいハウスを建てた。
昨年6月、県の検査で放射性物質が検出されず、収穫したシイタケは全て農協に出荷できることに決まった。安全のお墨付きを得たシイタケは数時間単位でかさを広げ、作業は早朝から夜まで全て1人で絶え間なく続く。「好きで始めたことだから、休みがなくても苦に思わない。5年間のうっぷんを晴らす気分」。泉さんはシイタケ