秋の味覚キノコ。おいしいだけじゃなく、森の生態系や里山再生にも重要な役割を果たしている。先月中旬、石川県の能登半島を拠点に活躍する若手研究者、赤石大輔さん(34)に案内してもらい、珠洲市の保全林でキノコ狩りを体験。豊かな自然に触れ、生態系の仕組みも学んできた。(担当・小椋由紀子)
生態系維持に貢献
この時季、食卓に並ぶことの多いキノコは、まだまだ謎の多い生き物という。まずは予備知識を得るため、赤石さんに話を聞いた。
キノコはかつて植物に分類されていたが、正しくはカビと同じ菌類。普段は地面の下で菌糸を広げ、ある時ふっと地上に現れる。その地上に出ている部分が、私たちがいつも目にする食べるところ。赤石さんは「国内で3000種ほど確認されているが、全体のごく一部でしかなく、名前がないものがほとんど」と説明する。見つけにくく、似ているものも多いため、分類が難しいそうだ。
キノコは自分で栄養を作れない。落ち葉を分解して生きるものもいれば、木から栄養をもらう代わりに乾燥や病気から守ったり、親木と幼木をつないで栄養を受け渡すなど、植物と複雑な関係を築いて森の維持に役立っている種類もある。
「能登はブナやアカマツなどさまざまな種類の森林があって、キノコも豊富。製塩や瓦造りが盛んで大量の薪を使うため、山にも適度に手が入り、良い環境が保たれてきた」と赤石さん。だが昨今は人々の生活が変わり、放置された里山は荒れた森になりつつある。生えている木の種類が変わることで、なじみのキノコが減少。知識を持つ人も減っているという。
こつはキノコアイ
生態や里山について理解を深めたところで、いざキノコ狩りへ。赤石さんが研究を続ける保全林をめぐるツアーに先月18日、参加。県内の7人が一緒に回った。
保全林は、5年前から地元のNPOやボランティアが草刈り、間伐などの管理をし、マツタケが採れる山への再生を目指している。目をこらし進んで行くと…あった!にょきっと生えた茶色の物体を発見。毒のあるテングタケという。よくみると、あちこちに点在している。
赤石さんによると、探すコツは目を、その名も「キノコアイ」にすること。木の根元に意識を集中し、他の植物はシャットアウトする。菌糸のつながり具合で輪っか状に生えてくることもあり、欧米では妖精が踊る姿になぞらえて「フェアリーリング」と呼ぶそうだ。なんだかロマンチック…。
人の手の入った林は適度に光が入り、穏やか。マツタケはまだないというが、ここ最近は松林に生える菌類が復活してきている。
約1時間の散策で、ベニヒガサ、カワラタケ、トキイロラッパタケなど21種類が見つかったが、食べられるのは4種類だけ。あとは毒があったり、食用には不向きという。
「キノコには危険なものも多い。見分けるのは本当に難しいんですよ」と赤石さん。山には所有者がいて勝手に入ってはいけない。観察するのも食べるのも注意が必要だ。
石川県奥能登地方では、里山で採れるキノコを生かした取り組みも活発だ。農家民宿や自然体験ができる能登町の「春蘭(しゅんらん)の里」では、いつでも天然物が味わえるよう会員農家が山の整備に励み、調査や勉強もしている。キノコ狩りは11月末ごろまで体験できるという。