険しい山地が広がる紀伊半島の山奥で、大ぶりのナメコを作る農家がいる。奈良県十津川村の上湯川きのこ生産組合代表理事、西竜一さん(37)だ。きれいな水や空気に恵まれた環境で長期間じっくり育てることで、食べ応えがあり、うま味のあるナメコが出来上がる。「汁物だけでなく、天ぷらなどにしても絶品」(西さん)だ。大阪や東京など県内外の飲食店で使われる他、特産品として村のPRにも一役買っている。
西さんは同村出身で、高校卒業後に同組合に入組した。以来20年ほどきのこ栽培に携わり、栽培技術を習得。昨年、代表理事に就いた。
一番のこだわりは、栽培期間の長さだ。一般的なナメコの栽培期間に比べ、約1・5倍の80日ほどかけてじっくりと育てる。栽培期間が長いと、生産量が増やしにくく、空調などの電気代も余分にかかる。それでも「量では他の産地に勝てない。味で勝負したい」と、長期栽培を徹底する。
ナメコの価格が下がる夏場でも1キロ当たりの単価は約400円を維持。7月の過去5年間の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)が約340円の中、2割ほど高い。同組合のナメコを取り扱う青果卸の奈良中央青果によると「香りや味、鮮度が良く、こだわって作っているのが分かる。スーパーなどからの評判も良い」(蔬菜部)という。
菌床栽培で、培地はシイや桜のおがくず、ウイスキーの麦芽の搾りかすなどを独自に配合する。前代表理事が考案したもので、「味が良くなる」(西さん)。過去には、ビールかすなどを使ったこともあった。しかし、ナメコが黒くなったり、うまく生えなかったりと失敗を重ね、現在の配合に行き着いた。
850ミリリットルの瓶に培地を入れ栽培する。特徴的なのが置き方だ。約500本の瓶を収納できる傾斜を付けた独自開発の棚を使い、瓶を斜めに設置する。一般的な平らな棚に比べ、収容量が上がり、生産量を増やせる。山あいの限られた土地を最大限に使うための工夫だ。
室温は14、15度。湿度は60%程度と低めにし、散水を控える。ナメコが成長しにくい環境だが、水っぽくなくしゃきっとしたナメコになるという。
西さんは「山奥で栽培や出荷には苦労もあるが、この地だからおいしいナメコができる。生産量も増やしていきたい」と話す。