アンズのような甘い香りが特徴で、諏訪地方では「アンズタケ」と呼ばれ食されているキノコが、110年前から同一種とみられていた海外のキノコと品種が異なることを、信州大農学部(上伊那郡南箕輪村)の山田明義准教授(49)=キノコ学=が突き止めた。固有の品種としてアンズタケの名前でこのほど学名登録され、茅野市の永明寺山公園で採取したアンズタケが、国立科学博物館筑波実験植物園(茨城県つくば市)に標本として保管された。
山田准教授によると、国内ではキノコの分類の研究はあまり重要視されていない。県内をはじめ北海道から沖縄県まで分布するアンズタケは1908(明治41)年、日本の研究者が欧米などで取れるキノコ「シバリウス」と同一種として以降、そのままになっていた。当時は遺伝子レベルでキノコを解析する技術はなく、「外見や文書の記述などを基に、アンズタケをシバリウスと同一種としたと考えられる」と山田准教授はみる。
山田准教授は、県内などで取れるアンズタケの分類や生態の解明を進めようと研究。国内で300個以上を集め、遺伝子レベルで解析した。公立の博物館が所蔵するアンズタケの標本も分析した結果、欧米などで取れるシバリウスとは遺伝子レベルで違うことが判明した。
見た目にも「シバリウスは黄色みが濃く、アンズタケは明るいレモンイエロー」(山田准教授)といった違いがある。山田准教授がまとめた論文は日本菌学会(東京)に採択され、同学会発行の英文誌にも掲載された。
アンズタケは国内に広く分布するキノコで、諏訪地方では加熱して肉の付け合わせなどとして食べられている。地方によってはキイロタケ、ミカンダケなどと呼ばれるが、諏訪地方でなじみ深いアンズタケが学名として登録された。同植物園に保管された標本は、永明寺山公園で学生が2013年8月に採取したアンズタケを乾燥させたものだ。山田准教授は「学生たちと重い実験器具を背負って山へ行き、キノコを採取しては分析を進めた。学名として認められ、学生の苦労に報いることができた」と振り返る。
山田准教授は、まだ確立されていないアンズタケの人工培養法も研究。国内のキノコの分類に関し、「明治時代に割り当てられた学名がそのままになっているものが他にもあり、実際には違う可能性はまだある」とし、地道に研究を続ける。