食用で人気の野生キノコ「クリタケ」について、大きさが通常の2、3倍ほどになる品種の栽培に信州大農学部(上伊那郡南箕輪村)の福田正樹教授(60)=キノコ遺伝育種学=が成功した。驚きの「びっくり」や「ビッグ」にかけて「ビックリタケ」と命名。下伊那郡根羽村が現在、製品化に向けて試験栽培中だ。収量が少ないことから市場に出回ることが少なかったキノコだけに、大量生産や、荒廃林などの栽培地としての活用への期待が膨らんでいる。
野生のクリタケは一般的に、コナラや栗などの枯れ木から発生する。県内の山林では10月から11月初めまで採ることができ、天ぷらにしたり鍋に入れたりすると「野性味あふれる味」(福田教授)が楽しめ、キノコ狩りをする人の間で人気だ。
シイタケやナメコと同様、栽培は可能。菌入りのこまをコナラなどの原木に打つと1年半ほどで生えてくる。1度生えると5年ほど生える。ただ、福田教授によると、収量がシイタケなどに比べて少なく、市場に出回ることはまれだった。
福田教授は全国各地に分布するクリタケを人工的に交配させ、自然発生ではなかった長所を持つ品種を生み出そうと2005年ごろから研究。産地の異なる30種類余のクリタケから、キノコに育つ菌糸を生む「核」を計60個採取した。全ての組み合わせの1770通りを試し、約1750で菌糸が発生。その中から生育の良い182種類を選び、原木で栽培した。
11年冬から佐久市の栽培試験場と、塩尻市の県林業総合センターで栽培。14年秋から182種類のうち数種類で、乾燥させた重さが一般的なものと比べて約3倍の1・5グラムほどになるクリタケができ始め、17年にはかさの大きさが約2倍の7センチもあるものが出現した。福田教授は「大きさにびっくりして、本当にクリタケかと疑うほどだった」と振り返る。
クリタケは原木を地面に並べるか、並べたところに土をかぶせると栽培でき、手間はかからない。福田教授は、荒廃林や遊休農地などを栽培地として活用することで、中山間地の環境保全にもつながるとみる。南信地方の自治体にビックリタケの栽培を提案したところ、同学部と連携協定している根羽村が手を挙げた。
根羽村では、原木から育てるシイタケの栽培が盛んだ。村振興課の塩沢聡さん(46)は「新しい村のブランドになる」と期待する。18年春にコナラの原木50本にビックリタケのこまを打っており、早ければ19年秋に生える見込みだ。