県内で今季、キノコが豊作傾向にあるのを受け、毒キノコでないかどうかを「きのこ衛生指導員」らが鑑定する県内保健所の窓口が盛況だ。昨季は不作だったこともあり、相談が前年度の2倍余に上る窓口もある。今年は県内で3年ぶりにキノコによる食中毒が発生し、鑑定の重要性は増しているが、一部の保健所では指導員が高齢化するなど今後の課題も浮かんでいる。
「うーん、ドクツルタケは食べたら死んじゃいかねないよ。破片が紛れてないかも見てください」。12日、長野市保健所できのこ衛生指導員の中村秀さん(53)=長野市=が50代の女性に語り掛けた。女性はバケツ大の籠いっぱいにキノコを持ち込んだが、食用は6、7本だった。
女性はキノコに詳しくはないというが、今季が豊作と聞き、知人とキノコパーティーを企画。その準備で山に入ったという。よくキノコ採りをするという市内の自営業の男性(54)も「今年は山にキノコが多い。分からない種類もあって鑑定に来た」。窓口にはこの日、順番待ちの列もできた。
県などによると、適度な雨量と日ごとの寒暖差があった今年は、キノコの発生に適した状況。長野市保健所には11日までに鑑定など436件の相談があり、前年同期(213件)から倍増した。県伊那保健所も108件と前年同期(40件)の2倍を超えており、県内11保健所のほぼ全てで相談が増えているという。
ただ、キノコを採る機会が増えるのに伴い、危険も生じている。県警によると、今年は今月11日までにキノコ採りで入った山で滑落するなどし11人が死亡した。遭難だけでなく、毒キノコを食べてしまう事例もあり、9月末と10月初めには、2015年10月以来となるキノコの食中毒が長野市内で2件発生。全国的にも三重県で9月、国内では5年ぶりにキノコ食中毒による死亡事故が起きており、消費者庁が注意を呼び掛けた。
長野県内の地域によっては、こうした食中毒を「水際」で防いできた態勢の将来を心配する声もある。各保健所で職員と共に鑑定を担うきのこ衛生指導員は、県や長野市がキノコに詳しい地元の人に委嘱。県内全体では現在42人で、ここ10年ほどは大きく変化していない。ただ、高齢化が進む地域もあり、保健所の担当者からは「高齢で体調が優れない人もいる」「後継の人を探すにも、どこを当たればいいか…」との声も漏れる。
12日に長野市保健所で鑑定に当たった星野満也さん(77)=長野市=は、元保健所職員で指導員歴5年。保健所ごとに開くキノコ鑑定の相談会は平日に行われ、手当もわずかのため、指導員の担い手は定年後の世代などに限られると感じる。ベテラン指導員が若手や保健所職員に知識を伝えるなど「後継者の確保や育成も考えなくてはいけない」とする。
相談会などの問い合わせは、平日に各保健所の食品衛生相談窓口へ。