兵庫県立人と自然の博物館(三田市)に標本として保管されていた植物の一種が、新種だったことが分かった。1992年に神戸市内で1個体だけ発見され、既に絶滅したとみられる。長く正確な分類が不明のままだったが、神戸大大学院理学研究科の末次健司特命講師(30)=植物生態学=らが解剖して詳しく調べた結果、未確認の植物と判明した。緊急の速報展が15日から同館で始まる。
確認された新種は「タヌキノショクダイ属」と呼ばれる珍しい分類の仲間。光合成をせず、地中に広がるキノコやカビの菌糸から栄養を取り込む菌従属栄養植物の一種という。発見場所にちなんで「コウベタヌキノショクダイ」と命名され、成果は国際的な植物分類学の学術誌「ファイトタクサ」にも掲載される。
末次さんによると、「コウベ−」は92年、在野の植物研究家3人が神戸市西区の山林で見つけた。以降も周辺で調査が続けられたが追加の発見には至らず、99年には一帯が産業団地として開発され、絶滅したと考えられてきた。
光合成の必要がない菌従属栄養植物は普段、落ち葉の下などに隠れ、地上に姿を見せるのは花や実を付ける期間だけ。このため詳しい分布や生態には不明な点も多く、末次さんらが調査を続けている。今回はその一環で同館の標本をあらためて精査した。
タヌキノショクダイ属の仲間は世界で約80種類が確認され、このうち国内の2種類は3〜4センチで、ごく短い茎に白っぽい円筒状の花を付ける。これに対し、標本の花はオレンジ色に近く約3センチ。筒の上部が六角形をしていた。解剖の結果、雄しべの構造などが海外の既存の種類とも明確に異なり、新種と判断した。
地中の菌に栄養を頼る菌従属栄養植物は、土壌の豊かな森でしか生息が難しい。開発の影響などで絶滅の危機にある種類も多いとされる。
末次さんは「今回の発見は、未知の種が人知れず絶滅している可能性を強く示唆している」と指摘。一方で、「標本さえあれば、発見時は詳細が不明でも後世に検討をゆだねることもできる。生物多様性を正しく把握する上で、標本がいかに重要かも改めて示した」と話す。