菌従属栄養植物。光合成の能力を失い、他の植物や菌などから栄養を得て生きる特異な植物の総称である。古くは腐生植物とも呼ばれていた。その一種にラン科のクロヤツシロランがあるが、この植物は地下にある菌糸を取り込むことでキノコから栄養を得るだけでなく、受粉に際してもキノコに擬態して昆虫を騙し花粉を運ばせているということが神戸大学の研究によって明らかになった。
クロヤツシロランは、熊本県の八代(やつしろ)で発見されたことからこの名がある。本州、四国、九州に分布するが、菌従属栄養植物によくあることとして絶滅危惧種である。山野の腐葉土の中に暮らし、秋、9月から10月ごろに花をつける。高さは3.5センチメートルから10センチメートルほど。
さて、被子植物において、9割を超える種が動物に花粉を運ばせる性質を持っている。それ以外の種では、餌に擬態するなどして昆虫を騙し、花粉を運ばせるものがいくらか存在する。こうした種においては、擬態対象の植物が実際に近くに生息している場合の方が受粉成功率は高まるということが知られている。クロヤツシロランもまた同様で、キノコに擬態するのであるが、近くにそのキノコがある場合の方が受粉が起こりやすいことが今回の研究で明らかにされている。
さて、クロヤツシロランが受粉に使うのはショウジョウバエである。ショウジョウバエは、腐った果実、キノコなどに産卵する。幼虫がそういったものを食べて育つからである。
ショウジョウバエはキノコと間違えてクロヤツシロランにも産卵することがあるわけであるが、クロヤツシロランはショウジョウバエの幼虫の餌にはならないので、産卵され孵化した幼虫は死んでしまう。
ハエにとっては災難な話であるが、こういった「共生的でない」受粉関係を持つ植物は他にもいないわけではない。ただ、地上でも地下でもキノコに依存して生殖する植物が確認されたのは、今回の研究が始めてであるという。
なお、研究の詳細は、Ecology誌に掲載されている。